スタスタと廊下を歩いていく八乙女くんの後を、身を縮こませながら追いかける。

 全く、八乙女くんたら、歩くのが速いんだから。バスケ部で身長も大きいからな。足も長いもんなぁ。

 遅れないように、必死でパタパタと八乙女くんの後をついていく。

 二人でひとけのない階段の踊り場まで来ると、八乙女くんはピタリと足を止めた。

「よし、ここなら良いかな」

 まっすぐに私を見つめた八乙女くんが、少し言いにくそうに切り出す。

「……あの、昨日のことだけどさ」

「あ、そうだ、昨日の!」

 私は本を入れた紙袋を八乙女くんに渡した。

「はい。これ昨日の本。貸そうと思って」

「えっ、若菜さん、もう読んだの?」

 八乙女くんはビックリしたように目を見開く。

「うん、私、結構本読むの早くて。それに、面白くて徹夜で読んでたから」

「マジか。すごいな」

 八乙女くんは本を受け取ると、パラパラと中身を確認した。

 本に視線を落とす八乙女くん。うわっ、まつ毛が長い!

 っていうか、八乙女くんの顔、こんなに近くで見るの初めて。

 改めて見ると、本当に綺麗な顔だなあ。

 目の色が茶色っぽくて綺麗だし、鼻も口も整ってて、背も高くてスタイルも良くて――雑誌に載るっていうのも分かるなあ。

 しかもイケメンなことも雑誌に載ったことも、八乙女くんは全然鼻にかける様子もないし。

「ありがとう。それと……」

 八乙女くんは真っ赤な顔でゴホンと咳払いをした。

「それと、俺がこういう本を読んでることは皆には内緒にしてくれない? 特に、恭介(きょうすけ)には」

「う、うん。良いけど」

 恭介くんっていうのは、同じクラスの男子で、部活も八乙女くんと同じバスケ部。

 色黒でガッチリとした体格のイケメンで、「バスケ部のワイルド王子」って言われてるんだ。

 私は八乙女くんの整った横顔をチラリと見た。

 八乙女くんの乙女趣味、親友の恭介くんにも内緒なのに、私なんかが知っちゃっていいのかな。