「若菜さんは……俺のことキライ?」

 八乙女くんの言葉に、必死で首を横に振る。

「う……ううん」

 嬉しいような、びっくりしたような――よく分かんない気持ちが胸に押し寄せてきて、私の目からは涙がポロポロと溢れ出た。

「私も……私も八乙女くんが好き!」

 やっとの思いで絞り出すと、八乙女くんは私の背中に手を回し、ギュッと抱きしめた。

「……良かった。両片思いだね、俺たち」

 初めは恥ずかしかったけど、八乙女くんの腕の中はすごく暖かくて、幸せで――。

 私も八乙女くんの胸に額をこすりつけ、ギュッと強く抱きしめた。

「でも、本当に私でいいの? 私みたいな――」

 言おうとした私に、八乙女くんは真剣な顔で首を横に振った。

「……前から思ってたけど、若菜さんは地味じゃないし普通に可愛いから。なんでそんなに自分のことを卑下するの?」

「だ、だって――」

 すると八乙女くんは私の額に甘くキスを落とした。

「……や、八乙女く――!?」

「若菜さんはさ、何ったって俺が選んだ女の子なんだから。もっと自信を持って」

「……うん」

 私は涙をふいて微笑んだ。

 そうだよね。もっと自信を持たなきゃ。
 でなきゃ、私を選んでくれた八乙女にも失礼だよね。

 胸の中が、いちごタルトみたいに甘酸っぱい気持ちでいっぱいになる。

 ドレスもケーキもないしお姫様でもないけれど、今の私は甘い気持ちで満たされていた。

「ありがとう、八乙女くん」

 私、もっと前を向いて生きなきゃ。

『まもなく、フォークダンスが始まります。参加者はグラウンドに集まってください』

 校内放送が流れる。

 私と八乙女くんは顔を見合せた。

「……行こっか」

「うん」

 すると八乙女くんは、スッと私の前にひざまずいた。

「それじゃ――いっしょに踊っていただけますか?」

 あ、これ、『いちごタルトは恋のお味』のダンスパーティーシーンのセリフと同じ!

 ……八乙女くんらしいなあ。

 私は思わずクスリと笑って八乙女くんの手を取った。

「……はい!」


 二人で手をつなぎ、グラウンドへと向かう。

 八乙女くんと一緒にフォークダンスの会場に現れた私は、かなり注目されたけど、どういうわけか全然気にならなかった。

 王子様にエスコートされた私は、すっかり気分がお姫様になっていたから。