「若菜さんっ!」

 廊下の窓から差し込む日差しを背に、教室へと入ってきたのは八乙女くんだった。

「八乙女くん……どうして」

 恭介くんと一緒なんじゃ!?

「どうしてって……」

 窓から微かにオレンジ色の夕日が差し込んできて、八乙女くんの整った顔を照らす。

 八乙女くんはコホンと咳き込むと、ほんのり赤い顔をして横を向いた。

「若菜さんをフォークダンスに誘いに来たんだけど……ダメ?」

「えっ?」

 私?

 どうして私を?

 だって、八乙女くんの好きな人は――。

 「な、なんで……」

 八乙女くんの好きな人は、恭介くんじゃ……。

 私が混乱してオロオロしていると、八乙女くんはふう、と小さく息を吐いた。

「……若菜さんって、意外と鈍感なのな」

 そう言って取り出したのは、四つ折りになった紙。

 あ、これ、借り物競争のお題――。

 そこにかかれていたのは

 『好きな人』

 の文字。

 え……えーーっ!!

 ま、まさか。

「俺の好きな人は、若菜さんだから」

 八乙女くんの言葉に、耳を疑う。

 う、ウソ。

 聞き間違い……じゃないよね?

 まさか……まさか八乙女くんが、私のことを好きだったなんて。

「う……ウソ」

 声がふるえる。

 胸にじぃんと熱いものが込み上げてくる。

 上手く言葉にできない。

 できないけど、嬉しさと信じられないっていう気持ちが入り交じって、わけがわからない。

 ウソでしょ。まさか八乙女くんが――。

「う……ウソだあ……」

 吐き出した言葉も共に、涙が溢れてくる。

「ウソじゃないよ。俺が好きなのは、若菜さんだから……」

 そんな私を、八乙女くんは優しく抱きしめる。

 とくん、とくん、と八乙女くんの心臓の音が聞こえる。


 甘くて、優しくて、恥ずかしくて――そんな気持ちが入り交じる。

「だ、だって、私みたいな地味で冴えない女――」

「そんなことないよ」

 優しいけれど、キッパリとした口調で言う八乙女くん。

「若菜さんは可愛いよ。自分では気づいてないかもしれないけど、若菜さんはすごく可愛いくて、魅力的だ」

「う、ウソ」

「だから本当だって」

 見上げると、八乙女くんの色白の端正な顔が、耳まで真っ赤になってる。

「……でなきゃ、好きになんてなんないよ」

 その顔を見て、ああ、本当なんだ、って私はやっと実感できた。