「若菜、リレーの応援に行かないの?」

 サエちゃんにうながされ、ハッと気を取り直す。

「う、うん。今行く!」

 リレーは体育祭の花形。

 各クラスが総出で応援してる。

 私がサエちゃんと一緒に同じクラスの女子がいる一角に着くと、ちょうどリレーが始まるところだった。

 まずは、第一走者の恭介くん。

「恭介くん、がんばれーっ!」

 二人三脚でもお世話になってるし、色々と助けてくれたし、それに何よりも、八乙女くんの好きな人。頑張って応援しなきゃ。

 恭介くんは、最初こそ三位くらいだったけど、そのあとグングンとスピードを上げ、最終的に一位で次の走者にバトンを渡した。

「よっしゃ!」
「一位だ!」

 クラスメイトたちが盛り上がる。

 続いて第二走者。三年生の先輩に抜かれて少し順位を落としたけど、二位で次の走者にバトンを渡す。

 第三走者も二位をキープし、そのままアンカーの八乙女くんの元へと走っていく。

 うん。ラストが八乙女くんなら大丈夫。一位になれる!

 ……そう思っていたのに、八乙女くんにバトンがわたる直前、第三走者の子がポロリとバトンを落とした。

 ――カラン。

 あっ。

 地面にバトンが落ちる様子がスローモーションみたいに見えた。

「きゃあああっ!!」
「バトンが!!」
「八乙女くーーん!!」

 悲鳴にも似た声が上がる。

 八乙女くんは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐにバトンを拾い上げると、冷静な顔に戻り、走り出した。

 一生懸命に走り、一人、また一人と抜いていく八乙女くんの姿に、思わず声が出た。

「八乙女くん……頑張って!!」

 祈るようにして八乙女くんの走る姿を見守る。

 そして八乙女くんは一番前を走っていた選手を抜き――トップでゴールテープを切った。

 目頭がじぃんと熱くなる。

 すごいすごい!

 八乙女くん、本当に一位でゴールしちゃった!