「えーっ、すごーい! 何で教えてくれなかったの!?」

「いや、だって多分それ一回だけだし、そんなに自慢するようなことじゃないから」

 ええっ、私だったらみんなに自慢しちゃうけどなあ。

「でもすごーい、こんなに大きく!」
「さすがイケメン!」

 またたくまに、八乙女くんの周りに人だかりができてしまう。

 あ、どうしよう。

 ただでさえクラスで男の子と話すのは緊張するのに、よけいに話しかけにくくなっちゃった。

 それに八乙女くんたちのグループってみんな運動部に入ってて目立つ子ばっかり。

 キラキラしてて、私みたいな地味子とは住む世界が違うから、なんだか近寄りがたいな。

 私が話しかけようかどうか迷っていると、不意に八乙女くんと目が合った。

「あ、若菜さん」

「は、はいっ!?」

 急に八乙女くんに名前を呼ばれて、背筋をピンと伸ばしてしまう。

 まさか、八乙女くんのほうから私に話しかけてくるだなんて!

「や、八乙女くん、どうしたの……」

「ちょっと話があるんだ。今、いいかな」

 廊下を指さす八乙女くん。
 あ、そっか。昨日のこと、みんなの前では話しずらいもんね。

「う、うん、いいよ」

 私は八乙女くんの後について教室から出た。

 八乙女くんの周りにいた女子たちが目を丸くしているのが分かる。

 そうだよね、普段は八乙女くんって無口だし、自分から女子に話しかけるなんてあんまりないもんね。

 うう……視線が痛い。