生徒たちの注目を浴びながら保健室につくと、『怪我の手当のためグラウンドにいます』という張り紙がしてある。

「あれっ、先生、いないのか」

「どうしよう、開いてないかな」

 だけど八乙女くんがドアを引くと、カギはかかっていない。

「とりあえず、ベッドで寝てな。俺、先生を呼んでくるから」

「いいよ。そんなに痛くないし、先生が来るの、寝て待ってるよ」

「でも――あ、そうだ。氷で冷やそう。ちょっと待ってて」

 八乙女くんが冷蔵庫から氷を出してくる。

「あ、ありがとう」

 頭を氷で冷やしながら横になると、痛みはどんどん引いてきた。

「どうだ?」

 ベッドの脇に立った八乙女くんがそっと頭を撫でてくる。

 細くて長くて、キレイな指。

「うん、冷たくて気持ちー……」

 空いた窓から涼しい風がそよそと流れこんでカーテンを揺らす。

 バレーボールの試合の後だからかな。少し汗ばんで張り付いた八乙女くんの前髪。

 ほんのり赤くなった肌。窓から差し込む光を受けて、八乙女くんの茶色い瞳がキラキラと輝く。

 ああ、八乙女くん、本当にキレイな人だな。

「そっか。良かった」

 八乙女くんの指が私の髪にサラリと触れる。

 じゅん。

 八乙女くんに触れられた場所が、熱を帯びたように熱くなる。

 ――トクン、トクン。

 心臓の音が鳴り止まない。

 やだ。

 八乙女くん、そんなに見つめないでよ。

 この気持ち、押さえきれなくなっちゃうよ。

 私はあまりに自分の心臓の音が大きくて、八乙女くんに聞かれていないかと心配になった。

「う、うん、ありがとう。もう平気だから。その――」

 口が上手く回らない。

 ああもう、嫌だなあ。

 八乙女くんにはその気が無いってハッキリしちゃったのに、こんなにも意識しちゃうだなんて。

 やっぱり私、八乙女くんのこと――。