そして今度は、男子の借り物競争が始まった。
スタートの合図と共に、八乙女くんが走り出す。
一番で箱に飛びつき、お題の紙を引く八乙女。
八乙女くんのお題、なんだろう。
そう思っていると、八乙女くんがこちらに走ってきた。
「若菜さん」
呼ばれたので立ち上がると、八乙女くんはぐいと私の腕を引っ張った。
「一緒に来て!」
ひゃあ!
や、八乙女くんと手を繋いで走ってる!
風を切って走る八乙女くんの横顔はどこまでも爽やかでカッコよくて――。
私は八乙女くんに手を引かれ、一緒に一位でゴールテープを切った。
「お疲れ様!」
「お疲れー!」
「一位だぜ」
八乙女くんが恭介くんに一位の旗を見せびらかす。
「さすがね」
サエちゃんが拍手する。
「でも、なんのお題で私を連れてきたの?」
私が尋ねると、八乙女くんは、ふっと笑って唇に人差し指を当てた。
「……ナイショ。体育祭が終わったら教える」
何だろう、気になるなあ。
あ、もしかして「根暗な女」とかそういうの?
もしくは「オタク」とか「地味な人」とかそんな感じ!?
多分そうだ。それを見て、私が傷つくと思って八乙女くんは見せてくれないんだ。きっとそう。