「――八乙女くんっ!」

 私は八乙女くんの元へと走った。

「え? 俺?」

「そう。一緒に来て!」

 八乙女くんは一瞬目をパチクリさせたけど、私の必死な顔を見て、立ち上がった。

「うん、俺で良ければ」

 私は無我夢中で八乙女くんの手を引いて走った。


「はあ、はあ、はあ」

「はい、ゴール! 若菜さんは三着だよ」

 先生がニコニコと三着の旗を渡してくれる。

 三着……良かった! ビリじゃない。

「ああ、良かった」

 その場にぺたりとへたり込むと、1位の旗を手にしたサエちゃんがこちらに走ってきた。

 その横には、なぜか恭介くんが。

「お疲れ様ー」

「お疲れ、サエちゃん。一位なんてすごいね」

「うん、まあね。お題が簡単だったから」

 サエちゃんがお題の紙を見せてくれる。

 そこには「大きい人」と書かれていた。
 大きい人。確かに。

「なあんだ。俺はてっきり『イケメン』とでも書かれているのかと」

 ははは、と恭介くんが笑う。

「若菜のお題は何?」

「えっと、私はこれ」

 私はサエちゃんたちにお題の紙を広げて見せた。

 そこに書かれていたのは「可愛い人」。

「可愛い……?」
「八乙女が?」

 サエちゃんと恭介くんが首をかしげる。

「かっこいいの間違いじゃないの?」

「なあ。違うよなあ」

 サエちゃんと恭介くんに否定され、ついムキになる。

「い、良いでしょ。私は八乙女くんが可愛いと思うんだから!」

 言ってから、ハッと横を向くと、八乙女くんが少し恥ずかしそうな顔をしていた。

「ありがとう……でいいの?」

「……うん」

 や、やっぱり変かな? 八乙女くんを可愛いだなんて。

 でも、いいんだ。人に何と言われようが、八乙女くんは可愛い!