「あ、あったあった、これだ」

 と、そこへ急に八乙女くんに声をかけられビクリとする。

「えっ、な、何!?」

「ほら、これ、嬢ヶ崎先生の新作。気になるって言ってただろ」

「う、うん、ありがとー……」

 私は嬢ヶ崎先生の新作を受け取った。

 あらすじを読み、表紙を見つめる。

 継母にしいたげられ、顔も知らない異国の王様に嫁ぐことになった主人公。

 その異国は野蛮で、王も残忍だと聞いていたけれど、実は嫁ぎ先の国は素敵なところで、王もとってもイケメンで優しくて――という内容みたい。

「わあ、面白そう」

「すごく良かったぜ。俺、この王様がかっこよくて好きなんだよな」

「へえ、そうなんだ」

「うん、ほら」

 八乙女くんは表紙に写っている褐色肌のイケメンを指さした。

「この王様、ちょっと恭介に似てない? 色黒な所とか、大柄でちょっとワイルドっぽいところとか」

「恭介くんに? う、うーん、確かに言われてみれば……」

 私は表紙でニヤリと笑う異国の王様をじっと見つめた。

 八乙女くんったら、恭介くんっぽいキャラを好きだなんて。

 その時、頭の中にサエちゃんの言葉がフラッシュバックしてきた。

 “私てっきり、八乙女くんは恭介くんとデキてるのかと思ってた!”
 “あの二人、いっつもベタベタしてるし”

 え? え? まさか……。

 さっき見たBL小説や、八乙女くんの女装姿が頭の中に浮かんでは消える。

 そして、いつか聞いた放課後の会話も思い出す。

 “じゃあ誰だよ、八乙女の好きな人って”
 “教えない”
 “何でだよ”
 “恭介だけには絶対教えない”

 あの会話の意味って。

 そういえば、教室で私と恭介くんが話してた時も、何だか機嫌が悪そうに見えたし……。

 まさか!

 まさかとは思うけど、八乙女くんの好きな人って、恭介くん!?