「はー、ステキ……」

 ゴロリとベッドの上を転がり、本を抱きしめる。

 ――と、その拍子に、上下灰色のスウェットにダサいヘアバンドをした自分の姿が鏡越しに目に入ってきた。

 目の下にはクマができてるし、髪もボサボサで肌も荒れてる。

  こ、これはひどい!

 いくらフレデリカ先生の本が面白いからって、夜ふかしして本を読むんじゃなかった……。

 あー、やだやだ。乙女チック気分が台無しだあ。

「はあ……」

 深いため息をつく。

 物語の中はこんなにも輝いていて乙女チックで素敵なのに、なんで現実の自分はこんなにイケてないんだろう。

 ドレスもケーキもないし、イケメンの王子様だっていないし――。

 と、そこまで考えて思い出す。

 そういえば、クラスのイケメン王子様、八乙女くんにこの本を貸す約束をしたんだった。

 私はキラキラと輝くピンク色の表紙をじっと見つめた。

 この本を……八乙女くんがねぇ。

 なんだか想像がつかない。
 でも私と同じ、フレデリカ先生のファン……なんだよね?

 男の人でフレデリカ先生のファンなんて珍しいな。というか、フレデリカ先生の小説を読む人に出会ったことすら初めてかも。

 もちろんネット上ではファンはたくさん見かけるけど、リアルでは今まで一度も会ったことがないから、てっきりこんな田舎にファンなんていないのかと思ってた。

 それが、まさかこんな近くに――。

 と、そこまで考えて思い出す。

 そういえば八乙女くん、読み終わったら貸してって言ってたっけ。

 私はピンク色の表紙をじっと見つめた。

 きっと八乙女くんも、この本を早く読みたいよね。

 この本、学校に持っていくのを忘れないようにしないと。

 私は書店でもらった茶色い紙のブックカバーを小説につけ、青い小さな紙袋に本を入れた。

「……これでよしっ、と」

 これで中身が乙女チックな本だとは誰にも分からないよね。

 先生にバレて没収されたりなんかしたら大変だし。

 私は顔を洗い、髪をいつものようにお団子に結った。

 目の下には相変わらずクマがあるけど――仕方ない。


「よしっ」

 顔を叩いて気合いを入れる。

 学校に着いたら、朝一番に八乙女くんにこの本を渡さなきゃ!