「ごめんごめん、騒がしい家でしょ」

 お姉さんたちとひと通り話し終え、ようやく私たちは八乙女くんの部屋に向かった。

「ううん、素敵な家だね。可愛いものがたくさんあって、お姉さんたちもキレイで面白くて」

「そう?」

「うん、うらやましい。それに八乙女くんも、可愛いお洋服似合うし」

「若菜さんも、フリルのついた服も似合うじゃん。何で着ないの?」

「昔はね、可愛い服も着てたんだけど――」

 私は、小学生の時のことを思い出した。

 その時は私もフリルやリボンのたくさんついた服が好きで、でもそういう服は高くて、私はお年玉やお小遣いを貯めて可愛い服を買ってた。

 だけど、そうして買ったピンクのワンピースを公園に着ていくと、一人の男子が私をからかったんだ。

「やーい、ピンク女! フリフリなんて着て、似合わねーの!」

 この言葉に、私はショックを受けた。

 それまで、両親や祖父母は私のことを可愛い可愛いって言ってたから、自分は可愛いんだって思ってた。

 でも、よくよく考えたら、お母さんや妹はパッチリ二重に高い鼻、ハーフみたいな彫りの深い美人なのに、私は純日本人顔ですごく地味な顔立ち。

 お父さんや祖父母たちは、ただ単に身内だからそうやって褒めてくれてたんだって気づいちゃったの。

「それ以来、私はあんまり外で遊ばなくなって、男子も苦手になっちゃったの。それで、家の中で少女小説を読むのにハマって――」

「そうだったんだ」

 八乙女くんが、しゅんと下を向く。

「ごめん、嫌なこと思い出させて」

「う、ううん、いいの」

 私は慌てて頭を振った。

「でも――」

 八乙女くんはボソリと言った。

「俺は、若菜さんのこと可愛いと思うよ。だから、自信を持って」

「……ありがとう」

 ああ、優しいな、八乙女くん。

 お世辞だって分かってるのに、嬉しくてたまらないよ。