そっか、八乙女くん、好きな人いるんだ……。

 家に帰ってもその事ばかりが頭の中をグルグルと回ってる。

 スマホに目をやると、八乙女くんからメッセージが来てる。

 八乙女『あれから大丈夫? 雪乃さんたちに変なことされてない?』とメッセージが来ていた。

 はあ、八乙女くん、優しいな。

 好きでもない女の子をこんなに心配してくれるだなんて。

 好きでもないのにさ……。

 何だか気が重い。

 私は「うん、大丈夫」とだけ返答し、ゴロリと部屋のベッドに転がった。

 天井のしみをじっと見つめる。

 そりゃそうだよね。こんなに地味でさえない本オタクの女なんて、八乙女くんが好きになるはずない。

 分かってた。

 分かってたよ。だけど――。

「はあ……」

 胸がギュッと締め付けられる。

 ダメだダメだ。クヨクヨしてちゃ!

 私は無理矢理頭を切り替えようと頑張った。

 そうだ。相手は王子様。初めっから私の手の届く相手じゃないんだ。仲良くなれただけでもありがたいと思わなきゃ。

 それにしても――八乙女くんの好きな人って誰なんだろう。

 八乙女くんはモテるけど、誰か特定の女の子と仲良いってわけじゃないし、女嫌いだっていうウワサすらある。

 そんな八乙女くんの好きな人なんて、全然見当がつかない。

 でも――八乙女くんが好きなのは、私じゃないことだけは確か。

 だって本人がそう言ってたんだもん。

「はああ……」

 胸がズキズキと痛い。

 知らなかった。

 失恋が、こんなにも辛いだなんて。

 助けて。

 誰か、この胸の痛みを消して――。