笑い声とともに聞こえてくるその言葉に、思わずギクリとしてしまう。

「い、いや、付き合ってないよ」

 八乙女くんの返事。

 だよねー。

 私たち、しょっちゅう土日に遊びに行ってるだけで、付き合ってるわけじゃない。分かってた。分かってたけど――。

「でも、好きなんじゃねーの? 若菜さんのこと狙ってるとか」

 ドクン。

 大きく心臓が波打った。

「まさか、違うよ」

 八乙女くんは大きく首を横に振った。

 違うんだ。

 そっかあ。

 胸の中に、ずーんと冷たくて重い石みたいなものが落ちてきたような気分になる。

「でもお前、前に好きな人いるって言ってたじゃん」

 恭介くんが不満げな顔をする。

「俺はてっきり、それって若菜さんのことかと」

「だから違うってば」

 ハッキリと否定する八乙女くん。

 なぜだかズキンと胸が痛んだ。

「じゃあ誰だよ、八乙女の好きな人って」

「教えない」

「何でだよ」

 しつこく好きな人を尋ねる恭介くんに、八乙女くんはすねたように横を向いた。

「恭介だけには絶対に言いたくない。それより早く帰ろうよ」

 八乙女くんがカバンを持ってこちらに歩いてくる。

 私は急いで女子トイレに逃げ込んだ。

 ドクンドクンと、心臓が変な風に脈打ってる。なのに、頭は妙に冷えきっていた。

 そっかあ。

 八乙女くん、好きな子いるんだ。

 そしてそれは、私じゃない……。

 そっか。

 そうだよね……。

 私は、ただ乙女趣味が合うだけの友達。

 分かってた。分かってたはずなんだけど……。

「あれっ」

 気がつくと、目からポロポロポロポロと涙があふれ出ていた。

 おかしいな、こんなにも涙が止まらないなんて。

「うっ……うっ」

 私はハンカチで涙をぬぐい、声を上げて泣いた。

 ビックリするぐらい、涙はいつまでも止まらなかった。

 ああ、私、八乙女くんのこと好きだったんだ。

 気づいた時にはもう遅くて――。

 ああ、神様。

 好きな人ができた途端に失恋するだなんて、そんなのってないよ。

 私はその場でポロポロと泣き崩れた。