「若菜!」

 サエちゃんが助け起こしてくれる。

「大丈夫!?」

「う、うん。大丈夫……」

 無理矢理笑みを作り立ち上がると、どこからか女子の笑い声が聞こえた。

「クスクスクス……」
「ぷっ、だっさー」

 えっ!?

 私は自分の足首を見つめた。転んだ拍子にひねったのか、足がジンジンと痛む。

 さっき……誰かにわざと足をかけられたような……。

 さあっと血の気が引く。

 怖い。まさかこれも八乙女くんのファンのしわざなの?

「ねぇ、若菜さん、ちょっといいかな」

 私がぼう然としていると、一人の女子が声をかけてくる。

 ショートカットで顔はまあまあ美人。私は体育着に書かれた名前を見た。佐藤さん。隣のクラスの子だけど、ほとんど話したことはない。この子が私に何の用?

「あの、若菜になんの用ですか」

 サエちゃんが黙っている私の代わりに答える。

「私は若菜さんに用があるの。ね、今から二人っきりで話せないかな」

 ニコリと笑う佐藤さん。

「う……うん。いいけど……」

 私は佐藤さんについてグラウンドの隅へと向かった。

 うう、何だか嫌な予感……。

「ここよ」

 佐藤さんと私がやってきたのは、グラウンドの隅。体育用具を入れる倉庫の裏だった。

 グラウンドからは影になっていて、ちょうど先生や他の生徒たちからは見えない視覚になっている。

「雪華ちゃん、連れてきたよ」

 佐藤さんが、長い黒髪をポニーテールにした美人さんに声をかける。

 あ、この子は……バスケ部のマネージャーの雪乃ちゃん!

 それに、雪乃ちゃんだけじゃなく。雪乃ちゃんの取り巻きみたいな女の子が三人もいる。

 背中にイヤな汗が流れる。

「あの、二人っきりで話すんじゃ……」

「だって、そうでも言わないと、あなた、着いてこないでしょ」

 佐藤さんが肩をすくめる。

 だ、だまされた!

 クスクス笑う雪乃ちゃんと取り巻きの女子たち。

 ああ、これはきっと、雪乃ちゃんの作戦なんだ。私はとっさにそう思った。