えっ、まさか八乙女くんが……こんな少女漫画みたいな小説を?
私たちはお互い、少しの間見つめ合った。
本屋さんで二人同時に同じ本に手を伸ばす。
少女漫画だったら恋が始まってもおかしくない、そんなロマンチックなシチュエーションなんだけど――。
八乙女くんは、かあっと顔を赤くすると、取った本を私の手に押し付けた。
「はい」
あれ? もしかして八乙女くん、照れてる?
「えっ? あの、八乙女くん、この本 ――」
「この本、若菜さんが読んで」
恥ずかしそうにポツリと話す八乙女くん。
「えっ、いいの?」
「いいんだ。ほら、やっぱりおかしいだろ。男子がこんな本読むなんて」
八乙女くんが自虐的な笑みを浮かべる。
本の表紙では、いちごたっぷりのケーキを手にした金髪の女の子が、黒髪の王子様に肩を抱かれて頬を染めている。
確かに、男子がこういう本を読むのってちょっと珍しいかも。
「でも……」
本当にいいのかな。発売初日に買いに来るってことは、八乙女くんもフレデリカ先生のファンなんじゃないのかな。
私はぎゅっとこぶしをにぎった。
「そ、そんな事ないよ。男子が乙女チックな恋愛小説が好きでも別にいいじゃん!」
「ほ、本当か?」
「うん。それに、私、今までフレデリカ先生のファンに会ったことなかったから、八乙女くんも同じファンなら嬉しいな」
私がじっと色白でキレイな顔を見つめていると、八乙女くんは少し考え、遠慮がちに切り出した。
「――そっか。じゃあさ、その本は若菜さんに譲るから、その代わり、読み終わったらその本、俺に貸してくれないかな」
「うん、いいよ。もちろん」
「ありがとう。それじゃ」
サッと片手を上げ、嬉しそうな笑顔で立ち去る早乙女くん。
早乙女くん、クールでとっつきにくそうだなと思ってたけど、ああいう可愛い笑顔で笑うんだ。ちょっと意外かも。
こうして私は、クラスの王子様の秘密を知ってしまったのでした。