「ねぇねぇ、あの子が……」
「えーっ、あの子がそうなの!? なんか意外!」
「一緒に映画館でデートしてたって……」

 そしてその日から、休み時間や移動教室の時、お昼前にトイレに並んでる時、ヒソヒソと私を見て話す声が聞こえてくるようになった。

 うう、まさか、他のクラスの子にまでウワサが広まってるだなんて!

 次の時間はグラウンドで体育の授業。

 体育着に着替えた私は、身を縮こまらせるようにして廊下を歩く。

「若菜、どうしたの? 顔が青いよ」

 サエちゃんが心配そうに聞いてくる。

「だって、みんなにウワサされてると思うと……」

 私が答えると、サエちゃんはふう、とため息をついた。

「大丈夫、ウワサなんて気にしなけりゃいいのよ」

 サエちゃんが腰に手を当てて言い捨てる。強いなあ。

 そりゃ、私もサエちゃんみたいに美人で頭も良かったら堂々としていられるんだろうけどさ。

 私じゃどう考えても八乙女くんとは釣り合わないし、申し訳なさしかない。

「まぁ、人のウワサも四十九日っていうし、そのうちおさまればいいけど」

「それを言うなら七十五日」

「そうでした。アハハ」

 そんな冗談をサエちゃんと言い合いながら、私は自分の靴箱に手を伸ばした。だけど――。

 じゃりっ。

 え!?

 変な感触がして恐る恐る靴箱の中を見ると、私のスニーカーが砂まみれになってる!

 ええっ、何これ!!

 私が固まっていると、ひょいとサエちゃんが靴箱の中をのぞきこむ。

「ちょ、ちょっと若菜、何それ!?

「まさかこれって……」

 私とサエちゃんは顔を見合せた。

「八乙女くんのファンのしわざ?」

「だよね、絶対」

 酷い。こんな嫌がらせをするだなんて。

 でも、八乙女くんのファンって言ってもたくさんいるし、一体誰がこんなことをしたんだろう。