「ねえねえ雑誌に載ってた八乙女くんってどの子?」
「ほら、あの茶髪の子。すごい顔キレイ」
「八乙女くん、カッコイイよね~! バスケ部の王子様って呼ばれてるんだって」

 体育館の入口には女子たちが群がってて、とてもじゃないけど中に入れそうにない。

「すご……」
「他の学校の制服の子までいるじゃん」

 これ、みんな八乙女くんを見に来てるの!?

 SNSでバズったっていうのは知ってたけど、まさか八乙女くんがここまで人気者だっただなんて……。

「これじゃ、見れないね。帰ろうか」

 私があきらめかけたその時、サエちゃんが私の腕を引っ張った。

「大丈夫、ついてきて」

 私はサエちゃんの後について一度外に出ると、体育館の裏に回り込んだ。

「ほら、ここから入れる」

 見ると、体育館の裏口が開いている。

「こんな所があるの知らなかった……」

「でしょ。私も最近知ったんだ」

 裏口から体育館に入ると、私たちは体育倉庫の横の階段を昇り、体育館の二階席にやってきた。

「ほら、ここからならバスケの試合がバッチリ見える」

「本当だ。すごい」

 人は少ないけど、他にも数人の女子バスケ部員や高校の卒業生と思われる人が二階席で試合を見てる。どうやら、ここは隠れた穴場みたい。

「キャーッ!」
「八乙女くーん!」

 黄色い悲鳴が体育館に響きわたる。
 す、すごい……。

 試合は前半終了間際。見ると、ちょうど八乙女くんにボールが渡った所だった。

 パスをもらい、すぐさまシュートを打とうとする八乙女くん。

 だけど、八乙女くんはエースだけあって、すぐさま相手チームの選手が二人がかりでディフェンスに向かう。

 ああ、相手チームの人に囲まれちゃった。もうダメかな。

 そう思った瞬間、八乙女くんは焦った様子ひとつ見せず、相手選手の股下を通す素早いパスを送った。

 八乙女くんがパスを送った方向には恭介くん。相手チームの選手二人を八乙女くんが引きつけていたので、恭介くんにはディフェンスがついておらず、完全にフリーの状態。

 パサッ。

 恭介くんがスリーポイントシュートを決め、前半終了のブザーが鳴った。

 す、すごい!

 よく分かんないけど、すごい!