「ごめんね、なんだか悪いなあ」

「いいっていいって。俺があげたいだけだから」

 そう言ってふんわりと笑う八乙女くん。
 でも――いいのかな? 彼女でもないのに買ってもらったりして……。

「早速つけてみなよ」

「う、うん。どうかな?」

 私がピンを付けると、八乙女くんはじっと私を見つめた。

「うーん、そこじゃなくて、もっと上かな」

 八乙女くんの長い腕が私のほうにスッと伸びてくる。

 そして端正な顔が私の顔に近づいたかと思うと、白く長い指が、そっと私の髪に触れた。

「うん、これでよし。可愛いよ」

 きゃ……きゃーっ!

 髪に触られちゃった!

 どうしよう。ありえないほど心臓がバクバク言ってる。

「あ、ありがとう……」

 消え入りそうな声でお礼を言う。

 こんなことなら、もっと髪、ちゃんととかしてくればよかった……。

 私がぼんやりとしていると、不意に後ろから声がかけられた。

「あれー、八乙女くん?」
「こんな所で何してるの?」

 思わずビクリとしてしまう。

 八乙女くんに声をかけてきたのは、同じクラスの女子だった。

 どうやら向こうは八乙女くんに夢中で私に気づいてないみたい。

 そのまま私に気づかないで通り過ぎてほしいな、そう思い、帽子を目深に被った。だけど――。

「あれっ、隣にいるの、もしかして若菜さん!?」
「本当だー、髪下ろしてたから気づかなかった」

「あ、こ、こんにちは……」

 私はピンをギュッと握りしめて挨拶をした。

「どうして二人がここに?」
「まさか、デート!?」

 八乙女くんはあはは、と笑った。

「かもね」

 ええ!?

 や、八乙女くんったら、何言ってるの!?