「なあ、若菜さん。『魔法少女マジカルアイラ』のオープニング歌える?」

 ウキウキしながら八乙女くんがリクエストしてきたのは、少女マンガが原作のアニメの主題歌。

「う、歌えるけど……」

 八乙女くんったら、女の子向けのアニメまで見るなんて!

「じゃあ、この曲、一緒に歌わない?」

「一緒に?」

 てっきり私に歌ってほしいって言うのかと思ったら、まさかのデュエット。しかも――。

「俺、アイラちゃんのパートでいい?」

 ウキウキしながらヒロインのパートを歌うと言い出す八乙女くん。

「う、うん。じゃあ私はキラリちゃんね」

 ウキウキしながらアニメの主題歌を入れる八乙女くん。

 しばらくして、画面にアニメのオープニングが流れ始める。

「この機種、アニメの映像がそのまま流れるんだよね。だからカラオケ行く時は必ずこの機種がある所にしてるんだ」

「そうなんだ。そういえばサエちゃんもそんなこと言ってたかも」

 八乙女くんは器用にもワンオクターブ下げた音で魔法少女アニメのオープニングを歌い始める。

「あー面白かった。いつも俺、この歌うたう時一人で歌うからさ、デュエットできて良かったわ」

「そ、そっかあ。いつもカラオケには一人で行くの?」

「うん、恭介たちと行く時もあるけど、その時はアニソン封印してるから、アニソン歌いたい時は一人でカラオケ行ってたんだ」

 そう言うと、八乙女は目を細めて嬉しそうに笑った。

「でも今度からは若菜さんを誘うね」

 わっ……。なんてキレイな笑顔。

 それは、二次元にしか興味が無い私も思わず見とれるような笑顔で――。

 うーん、やっぱりイケメンってずるい!

 その後も八乙女くんは魔法少女もののアニメについて語り始めた。

「――でさ、この間、ショウくんがアイラちゃんに壁ドンしたじゃん?」

「うん、あの展開、かなりドキドキしたよね」

「けどさ、正直なところ、俺としてはショウくんはキラリちゃんのほうがお似合いだと思うわけ」

「そうだよね。私もアイラちゃんにはユウキくんの方がいいと思う。ショウくんとキラリちゃん、ケンカばっかりだけど気が合いそうだよね」

「そうそう、気が合うって大事だよな!」

 とそこで、八乙女くんは恥ずかしそうに声のトーンを落とした。

「――ってごめん、ちょっと語りすぎちゃったな。俺ってキモい?」

「う……ううん! 私もアイラ好きだし、嬉しいよ!」

 嬉しいけど――やっぱりちょっと信じられない。

 八乙女くんって、女嫌いだって聞いてたけど、こんなに気さくに話す人だったんだ。

 恋愛に興味無いどころか、甘い恋愛ものが大好きだし。

 全然イメージと違うんだ。