「でさ――」

「おーい、八乙女」

 さらに何かを語ろうとした八乙女くんを、誰かが呼び止めた。

 見ると恭介くんたち男子が靴箱からこちらに向かって手を振ってる。

 わわっ、二人でいるところ、男子たちに見られちゃった!

「そんな所で何してんだーっ」

「ごめん、今行く!」

 八乙女くんは、恭介くんたちに手を振り返すと、クルリとこちらに向き直った。

「……そうだ。若菜さん、スマホ持ってる?」

「持ってるけど」

 もう高校生なんだからって、お母さんに無理言って買ってもらったスマホをぎゅっとにぎりしめる。

「それじゃ、俺に連絡先教えてよ。もっと色々話したいこともあるしさ」

 や、八乙女くんと、連絡先交換!?

 私が固まったまま口をパクパクさせていると、八乙女くんは少し困ったような顔をした。

「あ、ごめん。もしかして、嫌だった?」

「う、ううん! 別にいいけど」

 うわあ……男子と連絡先交換するのなんて初めて!

 両親と妹、それにサエちゃん。

 まだ三人しか入っていないアプリの友達一覧に、八乙女くんの名前が追加された。

「これでよしっと。じゃあまたね、後で連絡するから!」

 八乙女くんはこちらへ手を振ると、軽やかな足取りで男子たちの元へと駆けていった。

 ど、どうしよう。クラスの王子様の八乙女くんと連絡先交換しちゃった。

 ……でも、ま、いっか。

 どうせ連絡なんて来ないに決まってる。