「八乙女くん、何だったの?」

 教室に帰ると、サエちゃんが不思議そうな顔で聞いてくる。

「あ、うん。本を貸してあげただけだよ」

「そうなんだ。若菜、八乙女くんと本の貸し借りするほど仲良かったんだ、意外」

「う、うん。そんなに仲良いってわけじゃないんだけど、偶然、成り行きでそうなって……」

 私は笑ってごまかす。

「ふーん、そうなんだ。それよりさ、今週の『ダンジョン・クエスト』読んだ?」

 もうちょっと色々聞かれるかと思ったけど、それよりサエちゃんはマンガの話をしたくてしょうがないみたい。

 ま、そこがこのサエちゃんのいいところなんだけどね。

 黙っていれば美人なのにオタクでもったいないって言う人もいるけど、私としては人の悪口とかウワサ話より、アニメやマンガの話が好きっていうのは話してて気が楽。

 でもクラスメイトの中にはそうじゃない子たちもいて――クラスの派手な子たちがコソコソとこっちを見て話してるのが分かった。

「ねえねえ、八乙女くんと若菜さん、何の話だったのかな?」
「まさか、告白!?」
「まさかあ、あの二人が仲良いって聞いたことないよ」
「でもわざわざ廊下に出て話をするって――」

 ああ、やだやだ。変なウワサ、立てないでよ。

 私は現実の男子なんかと関わりたくないのに!