そしてまた、あたしはここに戻ってきた。


沢山のものを見てきたはずなのに、今のあたしの頭の中には洋人君のことでいっぱいだった。


なにをしていても洋人君の顔が浮かんできてしまう。


どうにかしてそれを忘れたくて、あたしは音楽の部屋でレコードをかけて大声で歌った。


どれだけ歌ったって、周りは森だから関係なかった。


歌っている間は心が晴れやかになって、気分がスッキリとする。


だけどやっぱり頭の片隅には洋人君がいた。


だから、次の日もまた次の日もみんなの記憶を改ざんすることはできなかった。


ろくに寝ていなくても、食べていなくても死なないから、生活はだんだん乱れてくる。


夜も昼もなくなって、学校も休みっぱなし。


そうして一週間ほどが経過したときのことだった。


本の部屋で読み飽きた書物を広げていると、庭先の方で足音が聞こえてきたのだ。


大きな屋敷でもあたしひとりしかいないし、本の部屋は庭に近い位置にあるのですぐにわかった。


あたしはハッと息を飲んで廊下へかけ出た。


廊下にある窓から外の様子を伺ってみると、そこには渡り中学の制服を着た2人の女の子の姿があったのだ。