「で、でもあたしは1年後にはもう記憶を消してるんだよ?」


「かまわない。だから俺たちはまた出会うんだ。いちからはじめるんだよ」


いちから、はじめる……。


記憶を消してしまえばすべてがなくなってしまう。


次の年はまた新しい人生を歩むことになる。


そう思っていたけれど、洋人君は違った。


たとえ新しい人生だとしても、また出会おうと言ってくれる。


「記憶が消えても心には残る。だからこの1年間を楽しい思い出で埋め尽くすんだ。そうすれば俺は、千奈のことを心にとどめておくことができるから!」


洋人君の言葉に胸がじんわりと熱くなっていく。


そんな風に考えたことなんて今まで1度もなかった。


こんなに長く生きてきたのに、気がつかされることはまだまだ沢山ありそうだ。


「本当に、そんなことができるかな?」


「できるさ! 俺のじいちゃんがやったんだぞ? 俺にだってきっとできる!」


洋人君はそう言いきった。


力強い言葉に涙が滲んでくる。


「だからさ、ちゃんと学校に来いよ」