「記憶が消えてもすべてが消えてしまうわけじゃない。それを、俺のじいちゃんは教えてくれてるんだよ」


「どういう意味?」


「俺たちは何度でも出会って、何でも恋をしようって言ってるんだ!」


洋人君はそう言うと勢いよく立ち上がり、そのままの勢いであたしのことをお姫様抱っこしてきたのだ。


突然持ち上げられ、慌てて洋人君の首に両手を回す。


「なにするの!?」


こんな風に抱っこされることなんて生まれて初めての経験だった。


洋人君と密着している体が熱を持ち始め、顔を直視することもできなくなる。


男女がこういう風に戯れている姿はテレビとか、本の中では何度もみたことがあった。


でも、実際にやられるのと見ているだけでは大違いだった。


本を読んだり、音楽を聴くだけじゃ足らなくなり、自分の足で海外へ向かったときと同じようなものだった。


ここまで緊張で体がこわばってしまうなんて、あたしは知らなかった。


「やっぱり俺たち付き合おう!」


「ほ、本気!?」


お姫様抱っこをされたまま、聞き返す。


洋人君は大きくうなづいた。


「もちろんだ! 千奈が不老不死で、記憶を改ざんする力があったって、俺の気持ちは変わらない!」


いつの間にか窓の外は明るくなり始めていた。


雨は小粒になり、もうすぐやみそうだ。