「ちょっとなにしてんの蕾」


横から樹里がパンを拾い上げる。


半分は袋に入った状態だから、まだ無事に食べられそうだ。


しかし、蕾は青ざめて左右に首を振っている。


「食べられないの」


「なに言ってんの? お腹空いてるんだよね?」


樹里は首をかしげながら、蕾にパンを手渡す。


蕾はそれを口元まで運んでいくのだが、食べようとした瞬間はじかれたようにパンを捨ててしまう。


それを何度も繰り返すのだ。


朝食のときも、これと同じ現象が起こったのだろう。


「ちょっと蕾、冗談はいい加減にして」


樹里の声色に怒りが含まれ始めた。


蕾は青い顔で困ったように眉を下げている。


「本当に、自分の意思じゃないの。わからないの!」


必死に説明しているが、それが樹里に届くことはない。


結局樹里と蕾は険悪な雰囲気に包まれて、2人から会話は消え去ったのだった。