いつ退院できるか聞いていないけれど、まだ入院中だということだけは知っていた。


それなのに……。


思えば、テスターの声は谷津先生に似ているかもしれない。


予想外の展開についていけずにいると、久典がナイフを突きつけた状態で袋の中からロープを取り出した。


そのままてテスターを後ろに向かせ、強引に手首を縛っていく。


その間もテスターは抵抗せず、久典にやられるがままだった。


「大丈夫か?」


テスターの両手足を拘束した後、すぐにあたしの体のロープを解きに来てくれた。


「ありがとう」


ようやく自由になれたのに、なかなか体が動かない。


あちこちいたくて、床に膝をついてしまった。


久典は郁乃のロープを解いている。


壁に手をついてどうにか立ち上がり、テスターを見下ろす。


本当に谷津先生なんだろうか?


その顔を見てもすでに原型はなく、判別がつかなくなっている。


なにか証拠になるものがないかと思い、スーツのポケットに手を入れた。


指先になにかが触れて取り出してみると、小さなサイフだった。