『千紗がそっちにお邪魔してないかい?』


その言葉に俺は一瞬キョトンとしてしまった。


「いえ、来ていませんが……」


仮にきていたとしても、今はもう夜の10時だ。


とっくに送って帰っている時間だった。


『そうか……』


「あの、千紗がどうかしたんですか?」


『あぁ。実はまだ帰ってきてないんだ』


「え?」


『電話にも出ないし、メッセージも既読にならない。久典君、なにか知らないか?』


「いえ、特になにも……」


今日の放課後、千紗は居残りになった。


送っていくために待っているつもりだったが、千紗が先に帰っていいと言ってくれたのだ。


居残りは千紗ひとりじゃなかったし、今日は妹の誕生日だからその言葉に甘えさせ
てもらった。


『そうか……』


「あの、俺も千紗さんの連絡を取ってみます」


『あぁ、頼むよ。もしかしたら、久典君からの連絡なら返事をするかもしれない』


それには答えず、電話を切るとすぐに千紗に電話をかけた。


しかしいくら待ってみても、電話に出る気配はなく。


留守電になってしまう。


「千紗、今どこにいる? みんな心配してるから、これを聞いたら連絡して」


そう吹き込んで電話を切り、更にメッセージも送った。


これで、気がついてくれるといいけれど……。