散歩から帰って、家の垣根が見えると心が弾む。
だって、おばあちゃんが「おかえり」って笑って、待っててくれるから。
のどを潤して、おばあちゃんの隣にぴったり寄り添う。
縁側の。
ボクだけの特等席。
うんと伸びて転がると、おばあちゃんも一緒にころん。
まどろみながらボクらは庭を眺めた。

おばあちゃんの庭は賑やかだ。
この家は広すぎるから、と、色んな花を育ててる。
旬の草花、細身だけど立派な桜、金木犀に沈丁花。
小さいけど豊かな菜園。
ボクはおばあちゃんの隣で、季節を感じるってことを学んだ。

陽だまりが眠気を誘う春は、草花が一番華やかだ。
甘い花の香りが、こんなにごちそうだったなんてここに来て初めて知った。

ひんやりした木の床肌と、通る風の心地良い夏。
今日みたいな夏日はうだるけど、打ち水が土の匂いと立ち上る瞬間はわくわくする。

虫の音でにぎやかな秋は、一番空が高い。
その空を、寝転んで見上げると、もっともっと高くなる。
焚き火の煙で、ボクがくしゃみを連発すると、おばあちゃんが笑う。
風の冷たさすらなんだか愛しい。

冬は戸を閉めて火鉢を添える。
すりガラスの向こうで、木枯らしや雪が舞う庭を眺めながら、うとうと眠るのは最高だ。

おばあちゃんはあったかい。
小さいけど、大きい。
ボクにたくさんの幸せをくれる人。

うつらうつらするボクらの上で、おばあちゃんがこの前つけた風鈴が、チリリンと音をたてた。