世界でいちばん 不本意な「好き」



ひとりぶん間を空けて腰かける。ふみとはもうあんぱんの袋を開けていた。わたしが袋詰めしたやつ。


「え、このあんぱんおいしい!」

「そうでしょ。コンビニとかじゃ売ってないけっこう高級なやつなんだよ」

「そうなんだ。すげーおいしい」

「ずっと思ってたけど、ふみとって食レポとか苦手そうだね」

「あたり。おいしいもの食べるとおいしい以外の感想言うのむずかしくない?だからそういう番組にもあんまり出たことないな」


もっと器用にやればいいのに。嘘がつけないって、損だと思う。


だけどわかるよ。このあんぱんは、食べると本当においしい以外の喩えをしたくない。

ふっくらしてて、弾力はあるけど無理のないくちどけで、つぶあんとこしあんが混ざっていて、上にかかったくろごまが生地を香ばしくしてる。…とか、言おうと思えばいくらでも言えるけれど。


「お茶飲む?」

「え、あ、うん」

「けっこう甘いからのど渇くよね」

「でもそれが甘いパンの魅力のひとつだよなー」


それも共感。同じ考えのときもあるみたい。

水筒のコップに半分くらいそそいで、暗いから気をつけて渡す。


今日は三日月だから明るい夜ではない。



「そうだ。ショーマくんのライブの日、何時くらいに寮出る?」


月末のことを急いで決めなくてもいいのに、と思ったけど、のん気に教室でされても困るから良い機会かも。


「お昼の回なんだよね?」

「そうみたい。本当は夜の回を取りたかったみたいだけど人気な時間帯なんだろうね」


まあ、ふつうはそうだろうね。バンドのライブって夜のイメージだもん。ショーマが参加してた路上ライブも夜が多かった。


「駅前の会場だから、10時半に出てお昼食べてから行くでいいんじゃないかな。…というかふみと、人だかりへいきなの?」


ライブ会場とか、さすがにバレそう。


「また変装する」

「めがねとマスクと帽子もね」

「わかったよ」

「…あ、そういえば」