「…何か用?」
渋々そう尋ねるとポケットから何かを出し、それを押し付けてくる。
長細い紙切れが4枚。
クラシック演奏会のチケットだった。
「この演奏会でお姉ちゃんと連弾する。だから聴きにくれば」
「は、ちょっと、行くわけないでしょ」
名前で呼んでくるし、教室に入ってくるし、不愛想なくせに、わたしのことが嫌いなくせに、こんなチケットを渡してくる。
そう、これはイヤガラセだ。
「月湖、お姉ちゃんのピアノ好きじゃん。3年ではお姉ちゃんの授業ないから聴く機会を作ってあげようと思って」
チケットが4枚なところもそう。
「要らないってば」
「ダサいから、いい加減逃げまわるのやめたら?」
そっちだって言い逃げじゃん。
わたしの言い分なんて興味ないみたいに、言いたいことだけ言って教室から出ていく。
「アリス、大丈夫?ひどいこと言われなかった?」
穂菜美ちゃんがわざわざ駆け寄って声をかけてきたからなんとか笑顔をつくった。
やじうま。
なんて、ひどいことを、やつあたりのように思ってしまう。
寧音に言われた台詞が何度も頭に響いて、手のひらを内側にぎゅっと丸める。
うまく握れずいびつに曲がった左の指が、もどかしかった。



