世界でいちばん 不本意な「好き」



年上だからだろうか。
仕事をしているからだろうか。

人生をかける、なんて、ピンとこない、果てしないようなことを口にする。


「久野ふみとの好きなことってなに?」

「人を笑顔にすること」

「……」

「今なんか「うさんくさ」って顔した」


いや、だって。

他人に対してそんなこと、思うひといる?偽善じゃなくて?


「俺ね、芸能界入るまではピアノ一筋で。や、べつに、好きじゃなかったんだけど、子どものころからやってたし…ほかの道なんて考えたこともなかった」


ピアノを好きじゃなかった?
意外だ。

あっこに見せられた、彼がピアノを弾く映像を思い出す。


楽しそうに弾いていて……すごく、すごく、良いなあって思った。



「だけど同級生の子に「人を笑顔にできるなら、アイドルとか似合いそうだね」って言われて。たしかに笑顔を見るのは好きだなって思って少しずつほかのことに目を向けるようになった」

「それで、本当になるの、すごくない?」

「運がよかっただけだよ。運よく今の事務所に拾ってもらえただけ」


それがすごいって言ってるのに。

芸能人なんてそうなれるものじゃない。まして国民的アイドルなんて。だからみんなうわさをするし注目する。



「今はいろいろ好きだよ。特に演技の仕事は本当に楽しい。だけど原点は人の笑顔なんだ」


ただちやほやされたいだけじゃない。

もっと深いものがそこにある気がして、わたしにはそれがなくて、何も言えなくなる。


わたしが9年後にこうなれている気もしない。



「だからさっきの子がファンの子だって知ってすげーうれしかったよ。あっこも紗依もだし、改めて幸せ者だなって思った」

「…そう」


幸せ者。
本気で自分のことをそう思える。

そんなひと、このひと以外、あとどれくらいいるんだろう。


そう思えたら、きっと“一番”に囚われることもないんだろうね。