世界でいちばん 不本意な「好き」



店長と少し話すふりをして新田くんと時間をずらしてコンビニを出た。出入口のすぐ横に立っていたふみとと目が合う。


「アリス、おつかれ」

「あ、ありがとう」


左側から、リクエストしていたお茶を渡される。

うまく受け取れなくて落としてしまった。それをすぐ拾い上げて、とくに何も気にせず再び手渡してくる。


「あ、お金…」

「勝手に買っただけだから」

「…そ」


いいならお言葉に甘えるけど。

自然と同じ方向に歩き出す。なんだかんだいって並んで帰ることが多い気がするのに、覚えが悪いみたいに慣れない。


「イチゴオレよろこんでたよ」

「本当?よかったー」


やっぱり笑った。もらった本人よりあげた人のほうがうれしそうなの、なんかへん。



「ねえ、ファンのひとって、そんなに大切?」

「うん、大切だよ」


間髪入れずに答えが返ってきた。楽しそうな顔。何がそんなに楽しいのか。


「どんなひとかも知らないのに?」

「どんなひとか知らないのに大切にするのは、アリスにとってそんなにへんなこと?」

「えっ…わたしは、そういう状況になったことないからわからない、けど」



想像もつかないの。

顔も声も性格も知らない人を大切にする気持ち。その人を、遠くからでも笑顔にできる方法。



「けど?」

「…けど、わたしは、傍にいるひとのこともうまく大切にできないから、すごいなって、素直に思った」


あっこも紗依も新田くんも、店長だって、このひとの話をするときは楽しそうだ。

まるでつらいことなんて何ひとつないみたいに。


「アリスは大切にしようとしてるように見えるけどなあ」

「や、なんか、そういうのじゃなくて…」


たぶんわたしのそれは凡のことだ。久野ふみととはどこかが大きくちがっている。



「俺の場合、人生かけた仕事だったからさ。応援も批評も、声をかけてもらえたらそれだけでありがたいんだよ。そのひとたちがいないと俺は自分の好きなことさえできなくなる。だから、大切にしたいんだ」