「ただいまー」


いつも通りの棒読みで家に入る。


どうせ返事は返ってこないんだから。


あー、嫌だ。


また顔を合わせたらガミガミ怒られるのだ。


少し憂鬱になりながら
私はリビングへの扉を開ける。


いつも睨んでくる父がどこにもいない。


珍しい、いつもはリビングで新聞を読んでいるのに。


ぴちゃん、と水道?の後がする。


多分、水道水が落ちた音だ。


ただ、なんだか嫌な予感がするだけで、


何も不自然なことはない。


大丈夫、きっと何もない、はずだ。


でも、ならなんでこの匂いがする?


この、鉄くさい、“アレ”特有の匂いが。


…それと、生花をさしたような、


湿った匂い。


そんな、まさかね?


あの殺人鬼がいるわけない。


最近噂になっている殺人鬼。


通称、『Mr.キラー』。


目をつけた人を殺し、頭だけを持ち帰る。


そして残りの死体は、彼岸花を刺す。


彼独特の殺し方だ。


…ぎし。


私が歩くたびに床が軋む。


ぎしぎしぎし!!


走ったため、ひどく音が鳴る。


いや、床の音よりも私の呼吸音がうるさい。


はぁ、はぁ、と息を切らしながら見た、


キッチンのど真ん中には、


“首のない死体”が転がっていた。