そっと扉から出たアローナは、
「きゃああああっ」
と突き飛ばされたかのように転んで見せた。
エンがその後ろから猛スピードで駆け出し、宴会のテーブルを飛び越えていく。
持ち上げても引きずる長いスカートで高価な宴会料理をなぎ倒しながらエンは出て行った。
「なんだかわからないけど、誰か逃げましたよっ。
追いましょうっ」
とアローナは叫んだが、エンをさらった連中は、酒と滅多に見ないような美女の集団に酔い、ぼんやりしていた。
お、おお……とのろのろと立ち上がっている。
「各国の王族を虜にする焼き菓子を焼ける娘が逃げたぞっ」
と男たちのひとりがようやく事態に気づいたように叫んだ。
アッサンドラの王子の花嫁になる娘だから誘拐されたんじゃかったのか……と思いながら、アローナは猛スピードでエンを追いかける。
シャナも遅れて参戦した。
エンが、ひいいいいいいっという顔で、階段を駆け下りていく。
「シャナッ、その辺から飛び降りてっ。
先回りできるからっ」
いや、あんたなに、本気で追わせてんだっ、という顔で、何度もエンが振り見ている。
だが、アローナは、いやいや、本気でやらねば騙せないだろう、と思っていた。
エンはすごい勢いで娼館の扉を跳ね開け、出て行く。
「さすが、全然衰えてませんでしたね。
子どもの頃、何度も悪さをしては逃げるお兄様に追いついては引き倒し、おしおきしてただけのことはあります」
とアローナはようやく出てきたジンに笑いかける。
盗賊たちは突然の逃走劇に、まだぼんやりとしているようだった。
そんなに凄腕でもなさそうだ、と判断したアローナはステファンを見る。
エンが押し開けていった扉のところに立っていた彼と目を合わせ、頷いた。
「おいおい。
娘が逃げたぞ」
「どうすんだ。
たまたま、いい獲物をゲットしたからって、大盤振る舞いしちゃったぞ」
とようやく酔いがさめてきて、揉めはじめる盗賊たちの許にステファンズが近づき言った。
「どうした、お前ら。
この辺りでは新顔だな。
なにかいい仕事でも探しているのなら紹介しよう。
ちょうど人手が足らなかったんだ。



