娼館経営者の判断としては、アリアナが正しいからだ。

「エン、此処から逃すから。
 自力で逃げて」

 そうアローナが言うと、は? という顔をエンはする。

「でも、我々が逃すとまずいから、自力で逃げて。
 みんな全力で追うけどね」
とアローナが言うと、常に冷静なエンは、

「……じゃあいいです。
 このまま此処にいます」
と言った。

 アローナはともかく、大勢に全力で追われて逃げられるとは思えなかったからだろう。

 だが、アローナは有無を言わさず、隠し持っていた小刀でエンが縛られていた縄を切った。

 太ももに縛りつけていたナイフを取り出し、切る手つきが手慣れていたからだろう。

 エンが、
「そんなの、いつも持ち歩いてるんですか?」
と呆れたように訊いてくる。

「この間、ちょっとした冒険の旅に出てからね。
 いつでも備えって必要だなと思って」
と言ってアローナは笑った。