「ジン様、あの扉、なんか怪しいです」
ひそひそとアローナは小声でジンに言う。
「うむ。
調べるなら今だな」
とジンは言うが、ジンは動けない。
何故なら、圧倒的な迫力で美しいジンの一挙手一投足を男たちは舞を見ながらも、窺っているからだ。
うーむ。
都合はいいけど、不本意なり……。
男たちからノーマークなアローナは、すすすっと酒瓶を手に後退り、壁際に寄ると、そっとその扉を押し開け、中に潜り込んだ。
暗い……。
アローナはもう一度、少しだけ扉を開けてみた。
光が入るようにだ。
豪奢な柄物のカーペットの上に縛られた女が転がされているのが見えた。
「エンッ」
とアローナは小声で叫ぶ。
「やっぱり……」
と呟いた。
情報通のエメリアはアローナの兄、バルトの妻となる女が誘拐されたことに気がついた。
その一団がこの娼館に隠れて泊まることになったが、客の秘密はバラせない。
親切というよりは、アローナたちに恩を売りたいと思ってのことかもしれないが。
エメリアはアローナたちが自分で気づくという形にして、知らせたいと思ったようだった。
だが、アリアナは余計なことをするなと止めたのだろう。
アリアナが非情なわけでは決してない。



