「うむ。
誰か此処に詳しいものは居ないのか」
と黒髪の美女が横で言う。
「アハト様、連れてかれちゃいましたしね」
と言いかけ、アローナはその美女を見上げて溜息をついた。
「どうした?」
と訊かれる。
「……私、女であることを返上したくなりました」
とアローナはうなだれた。
「夫となる人の方が、女としても美しいだなんて」
妻になる自信がなくなりました、ともらすと、横でその美女、つまり、アローナを心配してついてきたジンが声を上げる。
「なんとっ。
自信がなくなったということは、アローナよっ。
私の妻になる覚悟を決めてくれていたということかっ」
と抱きつこうとするので、サッと逃げる。
「アローナ!
無事にこの魔窟から帰れたら、今宵こそ、正式な夫婦となろうぞっ」
「あの……、この間、ちゃんと結婚するまで手を出さないとか言いませんでしたっけ?」
と言うアローナの後ろで、シャナが、
「そういうセリフ言う奴、大抵、死ぬんですよね~」
と笑って言っていた。
そのシャナの横で、大柄な美女に化けていたフェルナンが、
「そんなことより、私にはまだ、なにがなんだかわかっていないのですが」
と呟いていた。
説明を受ける前に、シャナに命じられた離宮の侍女たちがフェルナンを飾り立て、そのまま連れて来られたからだろう。



