「そうだ。
とりあえず、式の準備を進めてみるか。
式までにエンを捕獲すればいいわけだし。
もし、見つからなければ、とりあえず、身代わりを立てて、式だけ済ませてしまえばよい。
そうすれば、エンは責任感の強い女だから、ちゃんと王子の妃として働かねばと思って、戻ってくるだろう」
などと言い出す兄、バルトに、アローナは、
「私なら、そんなこと画策しやがった時点で、二度と帰りませんけど、お兄様」
と言う。
そのとき、シャナが水の壺を手に離宮から現れた。
用事があるフリをして話を聞きに出てきたのだろう。
そんなシャナを見て、バルトが言う。
「おお、なんかちょうど良さそうな奴が。
お前、エンの身代わりとして、花嫁にならんか。
金ならたんまり払うぞ」
いや、誰に頼んでるんですか……と思いながらも、
さすがはお兄様。
一目でシャナがただものではないと見破っているようだ、とアローナは思う。
「お幾らほどで?」
とシャナは早速、バルトに訊いている。
「待て」
とジンが言った。
「お前、私の命を受けて、父のところに潜入中のはずだよな?
いや、すでに父の手先と貸しているようだが……。
ひとつもまともに出来ていないのに、次々仕事を引き受けるな」



