「エンか。
まあ、帰ってこないことにはな……」
とバルトは空を見上げ、遠い目をして言う。
エンはあまり裕福ではない子爵の娘なのだが、たどっていけば遠縁に公爵家もある。
その公爵がバルトと縁続きになった方が有利なので、エンを自分のところの養女ということにしてもよいと言っている。
そんなにエンと兄との結婚に支障はないはずだった。
……エンの気持ちの方に支障があるかもしれないが、とアローナが思ったとき、兄がアローナを見て言った。
「しかし、エンが私の妻になれば、お前の髪をすく人間がいなくなるな」
「いや……お兄様がエンを連れ去ってしまったので。
今現在、すでに他の人がすいてますから大丈夫ですよ」
エンがこの呑気な兄に呆れなければ、話はすぐに進むはずなのだが。
出て行ってしまっている時点で、進みそうにもないな、とアローナは思っていた。



