貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~



 部屋に戻っ途端、ジンが宣言してくる。
「式が終わるまで、お前には触らないようにする」

 だが、その手は、また逃げたりしないようにか、アローナの腕をガッシリとつかんでいた。

 いや、触ってます……、とその手を見下ろし、アローナは思う。

「今度から、お前の考えを優先し、触らないようにする」

 いや、だから、触ってます。

「……お前が出ていくまで追い詰めてすまなかった」

 いや、追い詰めたのはアハト様ですよ……。

「今度、お前が自分を見つめ直しに旅に出るときは私もついていこう」

 いや、あなたとのことを見つめ直すのにあなたがついてくるの、おかしくないですか?
と思うアローナにジンは、

「恐ろしかっただろう、いろんなところに連れ去られていって」
と言い、今度は手を握ってくる。

 いや、だから、また触ってますよ、と苦笑しながらも、アローナは振り解かず、その握られた手を見たまま言った。

「あ、でもいいこともありましたよ」

 なんだ? と見下ろすジンにアローナは、ふふふ、と笑う。

「いろいろ使えそうな、有能な人たちを見つけましたからね」

「……なにかこう、悪寒がするな」

 誰のことなんだ? というように見るジンには答えず、アローナは言った。

「まあ、いろいろありましたが。
 終わりよければすべてよしですよねっ」

「……いや、いいか?」
とジンは手を握ったまま、真顔で訊き返してきた。