それにしても迎え遅いなあ、とアローナが思う頃、もうジンは入り口に到着していた。

 このようなところ来たことがないが……。

 豪奢な建物だな。
 下手したら、うちの宮殿よりも、と思いながら、ジンは供の者たちとともに、玄関ホールから吹き抜けている上の階を見上げた。

 各階の手すりには、細かな細工まで施してある。

「こんな娼館初めて来たなー」
とぼそぼそ話している兵士たちは浮かれているようだった。

 行き交う女たちも皆、品があって美しい。

 街中にある娼館の女たちとは全然違うようだった。

 扉の開け放たれた広間に、背の高い妖艶な美女が居るのが見えた。

 采配しているようなので、娼館を取り仕切っている女だろう、と当たりをつけたジンは彼女に話しかける。

「すまないが……」

「ああ、次はそれ運んで」

 言い終わらないうちに、振り返らずに言われた。

「いや、私は……」
と言いかけたところで、ようやく気づいたらしく、その美女、エメリアは振り返り、

「あら、ジン様?」
と言った。

 面識はないが、王なので、一応、顔は知っているようだった。

「アローナは今、上の階です。
 会いに行くのなら、ついでにお運びください」

 逞しい娼館の女は、猫の手どころか、王の手まで借りようとする。

「このようなところ、いらしたことがないのでしょう。
 社会勉強です、お運びください」

 いや、確かに来たことはないが、何故、私が運ぶ側……という顔をしたジンにエメリアは言う。

「今から、とんでもない上客が来るんです」

「……この国の王以上にか」