今より少し前、シャナが書簡を手にジンの許に行ったあと、昼間から美女に囲まれ、酒を呑んでいたレオは気づいた。
あの酒壺がカラになっていることに。
手を打ち、召使いを呼ぶ。
「これと似たような酒を持って参れ」
ところが、いつも気の利く老齢の召使いが首を振る。
「ございません」
「なんだと?」
「これはアッサンドラが独自に作っている蒸留酒。
それもかなりの上物です。
恐らくアッサンドラの王宮でしか手に入らないかと」
「なんということだ……っ!」
とレオは打ちひしがれる。
最初は癖があるし、強すぎると思ったアローナの持参した酒だったが。
今では、この酒しか受け付けなくなっている。
「おお、あの甘露な酒をもう呑めぬとはっ。
アローナは兄に贈らせると言ったが、いつの話になるかわからぬし。
第一、アローナは盗賊に攫われている。
いや、そうだっ。
私が攫われているアローナを助けに行けばよいのだ。
さすれば、アローナも感激し、兄にすぐ酒を送るように言うだろうっ」
「……さようでございますね」
この前王には逆らうだけめんどくさい、と長年の経験で知っている召使いは、レオの言葉に適当に頷き、さっさと船の手配を済ませてしまった。



