貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~


「あ、あの節はどうも。
 失礼しますっ」
とアローナは適当なことを言って逃げようとしたが、

「待て」
と案の定、首根っこを捕まえられた。

「使えない女だったとしても見てくれはいい。
 また何処かに売ろう」

「いやいやいやっ。
 逃げ出した商品を捕まえて、また売るとか。

 そういう商法かと思われて、信用ガタ落ちですよっ」
と猫の子のように衣服の首の辺りをつままれたまま、アローナはじたばたする。

「……なんだ、お前、いらないと放逐(ほうちく)されたんじゃなくて。
 売られた先から逃げ出してきたんだったのか?

 それも信用に関わるな。
 じゃあ、戻そう。

 お前が娼館から売られた場所は何処だ」
と頭はアローナを引きずっていこうとする。

「いやいやいや、それはちょっとっ」
とアローナは叫んだ。

 烈火の如く怒ってそうなアハトのいるところに、今すぐ戻りたくはない。

「それが嫌なら、もう逃げ出せないところか。
 一度買ったら、絶対に返品してこない相手に売り飛ばそう。

 ……してこないっていうか。
 できないんだろうがな……」
と頭はボソリと言った。

 ひーっ、とアローナは息を呑む。

 絶対に返品できない状況。

 殺されるか、それに匹敵するひどい目に遭うとしか思えない。