貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~



「馬車を止めろっ。
 ひっ捕らえよっ!」

 アローナが、ふわっと馬車からいなくなってしまったので、アハトは叫びながら立ち上がった。

 馬車をつかんで、開いたままの扉から身を乗り出す。

 慌てて御者(ぎょしゃ)が馬車を止めていた。

「どうしたんです?」
と声がしたので見ると、馬具屋の前にフェルナンがいた。

 部下たちと馬具を見ていたようだった。

「今、そこっ、シャカシャカ逃げてったでしょうっ、アローナ様がっ」
とアハトは今来た道を指差す。

「……シャカシャカって。
 茶色くてすばしこい虫みたいですね。

 台所辺りによくいる」
とフェルナンが呑気に言ってくるので、アハトはフェルナンの部下に向かって叫んだ。

「アローナ姫が逃げたっ。
 王に気づかれる前にひっ捕らえよっ!」

「ひっ捕らえよって、一応、あれ、王妃様になられる方ですからね」
とフェルナンが言う。

「……いや、フェルナン様こそ、あれ、とか言っておられますが」
と言いながら、アハトは思っていた。