貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~



 むせ返るような花の香り。

 いや、それに混じるスパイシーで野性的なこの香りはなんだろう。

 目を覚ましたアローナは眠っている自分の側に横たわり、頬杖をついてこちらを見ている黒髪の美しい男に気がついた。

 長い黒髪をひとつにまとめたその男は、その髪と同じ色の鋭い瞳をしていた。

 ひーっ、と悲鳴を上げたつもりだったが、声が出ない。

 そんなアローナを見て男は呆れたように言う。

「お前がアハトが連れてきた娼館の女か。
 王の(しとね)で爆睡しとはたいしたものだな」

 アローナは慌てて、若き王から遠ざかる。

 その恥じらうような仕草を見て、男は、ほう、と驚いたように言った。

「アハトがどうやら生娘のようだと言っていたが、本当なのか。

 まあ、娼館にいたのだろうから、男を騙し、その気にさせる手練手管を仕込まれてはいるのだろうが」

 ……ご期待に添えなくてあれなんですけど。

 私、娼館にいたのは、本当にわずかな時間だったんで、なにも仕込まれてないんですけど。