貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~

「つないでもいいか」

「……は、はい。
 ……どうぞ」
とアローナは言う。

 そのまま横に座るジンの方は見ずに、真正面を見ていた。

 ……握ってきませんね。

 どうしたら、いいんでしょう、この右手。

 そう不安がりながら、思わず、握り締めてしまっていた、ジン側にある右手をゆるめてみる。

 ……やっぱり、握ってきませんね。

 こ、このまま、どうしたら、と二人で膠着(こうちゃく)状態になっていたそのとき、

 何処からともなく、矢が飛んできた。

 はっ、と気配を感じたジンがアローナをかばうように、抱いて避ける。

「矢に毒を塗って射殺(いころ)す!?」
と昼間の話を思い出し、アローナは思わず叫んでいたが、ジンは寝台に刺さった矢の矢尻を確認し、

「なにも塗ってないようだが」
と呟いていた。

 アローナを片腕に抱いたまま、ジンは矢が飛んできた方角を見る。

 アローナが見上げたときには、なんの変哲もない天井だったが、ジンはそちらを見て、笑って言った。

「よし。
 明日からは厨房じゃなく、フェルナンのところに行け」

 えっ? シャナ?
と思ったが、そちらを見ることはできなかった。

 強くジンに抱きしめられたからだった。