ところが、夜やってきたジンの方はすこぶる機嫌が悪かった。
なんなんですか、今夜は、と寝台に腰掛け、アローナが思っていると、
「お前、あの殺し屋と手をつないで庭を歩いてたろう」
とジンは言ってくる。
「好きでつないで歩いてたわけじゃないんですけど」
と言い訳をするアローナの手に、青い石のはまった金の杯を持たせ、ジンは勝手に酒をそそぎはじめた。
「シャナが、なにが好きかって訊いてきたんですよ」
ジンは語り出すアローナの横に腰掛け、自らもついだ酒を口にする。
「一日中、毒殺ですか? 射殺ですか?
いやいや、やっぱり、矢に毒を塗って射殺すのもなかなかですよね、とか言うの、聞いてみてくださいよ。
どっと疲れますから」
なんだかんだでシャナは美しいので、侍女たちもあまりシャナを咎めない。
一番口うるさそうな古参の侍女もうっとりとシャナを木の陰から見ていた。
「矢に毒を塗ったら、それも毒殺なんじゃないですかねーって言ったら、ですよねー、とシャナが気を良くして話し続けて、手を握ってきて。
それで、そのままちょっと話しながら歩いてただけなんですけど」
子どもの頃、エンと手をつないで遊んでいたときと、変わらない握り方だったので、特に振りほどかなかったのだ。
「そんなの理由にならないだろうが。
俺には手も握らせないのに」
「ジン様、手をつなぎたいなんておっしゃらないじゃないですか」
そうアローナが言うと、ジンは呑みかけていた酒をくいっと全部あおぎ、アローナを見つめて言ってきた。
「……つなぎたい」
そ、そうなのですか。



