「絃織さんには行ってほしかったなぁ」


「…俺は様子を見る」


「…ほんと、なに考えてるか分かんないや」



カタカタとキーボードを打つ音だけが妙に響いていた。


そして私はずっと、陽太を見ていた。


ねぇ陽太。

おかしいことばかりが続くと、「あれ、おかしいな」って思ったとしても感覚が麻痺しちゃうんだよ。


忘れちゃうの。

だからいざ思い出したときに恐怖が全身を襲ってくる。



『君はまだ高校生だよね?…絃ちゃん』



どうして名前を知っていたの、なんて。

本当はいつでも聞けたのに。
どうして私は聞かなかったんだろう。



『これ絃織さんでしょ?それで赤ちゃんが絃ちゃん』


『…どうして後ろ姿だけで分かったの?』


『あー…うーん、勘ってヤツ?』



疑うことはしたくなかった。

疑いたくなかったから、掘り下げなかった。



『この世界に身を置いてるなら…そうやって人をすぐ信用しちゃ駄目だよ絃ちゃん』



私、思い出したの。
思い出したんだよ、陽太。

陽太の苗字、“天道”ってずっとどこかで聞いた覚えがあったから。



『天道さんに連絡しねェと。これでやっと頂点の座は龍牙組のモンだ』



そんなわけない、そんなはずないって思ってたけど。

でもどうして?が多すぎる。


陽太は私が過去を知るときに必ず関わっていた人だった。

必ず陽太がきっかけで色んなことを知っていく。