「しんくーん! 優たーん! あけおめことよろー!」
「姉貴、まだ今年は終わってないから。あと30分あるから」


 やあ、皆さんこんばんは。きっちゃんだよ!

 今、俺の目の前に立ち意気揚々と真也宅の玄関を開いた女性は、初登場の俺の姉貴である。
 城田桜、32歳。職業は秘書。身長170センチのEカップで彼氏無しだ。

 弟から見ても美人である姉になぜ彼氏がいないのかと言うと、


「さくらちゃんだー!」
「マイエンジェル優たーん! 久しぶりー! 相変わらず可愛いねぇ食べちゃいたい! 性的な意味で!」


 ご覧の通り、ロリコンの変態だからである。まったく……健全紳士の俺とは真逆だぜ……。

 おっぱい星人はその谷間に優ちゃんを抱き、部屋の奥へ入って行く。
 あ、今日は皆で年越しをするからだぜ!


「しんくーん、久しぶり!」
「ああ、桜さん。こんばんは、お久しぶりです」


 キッチンに立ち、営業スマイルではない朗らかな笑みを浮かべる真也。
 ……は、何やら白い塊をこねくりまわしている。


「もうすぐ手打ちそばが出来上がるので、適当に座っててください」
「真也、お前は一体何職人を目指してるの?」


 頭に巻かれたタオルと、額を伝い落ちる汗がとても様になっている。

 貫禄が出てるぞオイ。


「しんくんは相変わらずパーフェクトボーイだねぇー! 旦那に欲しいわー!」


 言うなり、真也の頭を掴んで谷間へ突き落とす姉貴。
 ……いや、さすがに羨ましいとか思わないよ?同情はするけども!

 きっちゃんはただの女性には興味はありません!
 この中に、優ちゃん・高峰優ちゃん・エンジェル優ちゃんがいたら私の所に来なさい!以上!


「すみません……俺は妻を一生愛してるので」
「はーっ! 羨ましいなぁ翠さん!」


 あ、翠(みどり)さんは亡くなった奥さんの名前だ。


「でも翠さんいなくて溜まってるでしょ? 性欲を持て余してない? 風俗で処理してるの?」


 誰かこのデリカシーが死滅した女をどうにかしろ。


「よし! 私のおっぱい揉んでよいぞ! ホレホレ!」
「いえ、間に合ってますので」
「生地揉みながら言うな私はそば以下か? 金玉ねじり取るぞ」


 額に青筋を浮かべる姉貴を無視し、真也はそば作りを再開する。

 姉貴は真也を睨んでから、


「もう! おこだよ!」


 とか言いながらリビングへ移動した。


「おこだよ!」


 復唱する優ちゃんは死ぬほど可愛い。

 そんな彼女に向かって、俺は千切れんばかりに手を振る。


「優ちゃんやっほー!」
「きっちゃんやっほー!」


 一瞬にして咲くエンジェルスマイルが眩しすぎるぜ……!目の保養だ……癒される……!

 駆け寄ってきた優ちゃんを抱き留めれば、


「樹久! 貴様、私に反逆する気か!?」


 慌てた様子で優ちゃんを奪い取る姉貴。


「俺と優ちゃんとのイチャイチャタイムを邪魔するなよ! 駆逐するぞ!」
「よく喋るな、豚野郎」


 このおっぱいオバケ殺してもいいかな?

 真也には頭が上がらないが、姉貴には噛みつきまくるよきっちゃんは。
 だって真也、上司だし……俺、アイツの秘書だし……背負い投げ、痛いし……。


「優こりんは私のものです!」
「苺の馬車に乗って一人でこりん星に帰れ」
「うっせークソムシが」


 虫?やっぱり俺、虫なの?


「いちごのばしゃ!? かわいい! ゆうものりたい!きっちゃん、こんどのせて!」


 苺の馬車というワードに食いついたマイエンジェルは、輝く瞳で俺を見上げて腰に抱きついている。

 幸せすぎて死にそうだよきっちゃんは……。


「その日、我々は改めて実感した……高峰優ちゃんの可愛さを……!!」
「ゴッフ!!」


 優ちゃんを奪い取るため、姉貴は俺の鳩尾にタックルを決め込み優ちゃんを抱き上げた。

 さすがのきっちゃんもキレちまいそうだぜ……。


「駆逐してやる……姉貴は、この世に一片のDNAも残さずに駆逐してやる!!」


 新年まで残り10分。
 姉貴に掴みかかる俺。優ちゃんをいったん床に降ろし、俺の腕を掴むと綺麗な背負い投げを決める姉貴。

 三秒で敗北した。


「こんなおっぱいのでけぇヤツには勝てねぇってことか……」


 床に伏せたまま涙を流せば、姉貴は高笑いしながら俺のケツを蹴る。

 ……っていうか何でどいつもこいつも背負い投げが得意なの?
 普通できないよね?どこで習ったの?俺の28年間の人生の方が間違ってるの?


「できたぞー」
「そばだー!」


 新年まで残り8分。そば入りのお椀を両手に真也が颯爽登場。

 優ちゃんと姉貴はすぐさま着席する。


「熱いから気をつけろよ、優」
「うん!」
「ちょ、真也、ナチュラルに人の上に座るのはやめよう?」


 気づかなかっただろうけど、俺は椅子じゃないんだぜ!!


「あ? 立ってろってか?」


 座ったまま上から頭を小突くのはやめようか真也。卑怯だぞ高峰くん。


「美味しそうー! いただきまーす!」
「いただきます!」
「いただきます」
「いやあの、若干一名いただけないんだけど」


 まず真也に椅子として扱われてるから体を起こせない。ゆえに、食べられない!

 新年まで残り、


『3! 2! 1! あけましておめでとうございまーす!』
「ファッ!?」


 テレビから聞こえた司会者の言葉に絶望した。

 きっちゃん踏まれたまま年越したよ!?そばも食べられてないよ!?


「あけましておめでとう、樹久」
「いや、全然おめでたくないね? 真也くん、俺の状況を見て?」


 イケメンスマイルで誤魔化せると思ったら大間違いだ!


「クソッ……今年こそ優ちゃんを奪ってやるからな……!」
「いや、優たんは私がもらうから」
「お前ら二人とも除夜の鐘で煩悩ごと消してやりたい」


 まあ……今年もこんな感じでよろしくな、真也。

 あと、熱々の汁を鼻に垂らすのはやめてくれ……。