「じんごっべー! じんごっべー!」


 皆さん、こんにちは。優のパパです。今日は12月25日、クリスマスだ。

 クリスマスと言えば、ツリー・ケーキ・プレゼント・サンタ・ケーキだ。
 俺と優はチョコレートケーキ派だが、皆さんは何派だろうか?


「シュワー! シュワッキマッセリ! シュワッキマッセリー!」


 小学校で習ったのか、優はご機嫌な様子で讃美歌を口ずさんでいる。
 ……ちょっと間違えてはいるが、歌声も可愛すぎて孕みそうだ。耳がな。

 なぜエンジェルがこんなにご機嫌なのか。それは、今からケーキやクリスマスグッズを買いに行くからだ。
 商店街の中を、優はスキップしながら進んでいる。可愛すぎてつらい。

 ……ん?ああ、仕事?もちろん有給休暇だ。


「まっかなまっかなーおはなっのー♪」
「おや、お嬢ちゃん可愛いねー! はい、サービスだ! メリークリスマス!」
「わーい! ありがとう! トナカイさん!」


 トナカイの着ぐるみを着たおもちゃ屋のおじさんから、ピンクの風船をもらう優。
 その様子を微笑ましく眺めていると、スマホのバイブが震えた。


「……」


 受信元は、Tbutter。……リプライ通知らしい。
 一つ舌打ちをしてから、ロック画面に目をやった。


『Tbutter             今
きくりん@優ちゃんは俺の嫁
オイ、真也!!今日は何の日でしょう!!』


 ……ただのスパム業者だったらしい。

 見なかったことにしてスマホをポケットにしまおうとした時、再びリプライ通知が届いた。


『Tbutter             今
きくりん@優ちゃんは俺の嫁
今日は何の日?ルッルー♪』


 ……無視だな。見なかったことに、


『Tbutter             今
きくりん@優ちゃんは俺の嫁
ねえねえ真也!!12月25日だよ!!何の日でしょう!?』


 ……………………。

 無言でTbutterにアクセス。


『@yuutayan_love あんまりやかましいと今日をお前の命日にするぞ。』


 とだけ返信し、スマホを、


『@yuu_love ひどっ!ひどい真也!(´;Д;`)』


 ……スマホをしまっ、


『@yuu_love なあなあ!真也!今日が何の日か本当はわかってるんだろ!?』


 スマホ、


『@yuu_love 真也はツンデレだもんな、俺は知ってるぜ!本当はわかってるんだろー?照れなくてもいいのにー!このこのー!』



 樹久のアカウントのプロフィールに飛び、スパム報告とブロック。

 ようやく静かになったスマホをしまってから、優と手を繋ぎケーキ屋へ。


「ぱぱ! ゆう、チョコレートケーキたくさん食べたい!」
「よしよし、わかってるぞ。すみません、チョコレートケーキを2ホールと、ショートケーキを1ホールください」


 当たり前だが、てっぺんにはサンタの砂糖菓子をのせてもらった。
 ついでにラブキュアのシャンパンジュースも購入。

 店を出ると、


「あ! いた! 真也!」
「虫けらに出くわした」


 チッ……。


「真也、心の声と逆じゃね? きっちゃんとっても傷ついた」
「虫けらに出くわした」
「うん、何で二回言ったの?二倍のダメージだね?」
「きっちゃんだー!」


 ご機嫌の優は樹久の腰に抱きつき、眩しい笑顔を咲かせる。
 樹久の野郎はあっという間に表情を緩ませ、鼻の下を伸ばした。


「優ちゃんメリクリー!」
「きっちゃん! プレゼントくれなきゃ……えっと、なんだっけ……? ……あっ!お金をわたさなきゃ、うつぞ!」
「残念。それだとただの強盗だね?」
「んー? お金を、くれても、うつぞ?」
「大分横暴な強盗に進化しちゃったね? 一旦、お金と撃つのから離れようか」


 優が言いたいのは、多分アレだ。“プレゼントをくれなきゃ悪戯するぞ”。

 残念ながら季節と月が違うが、可愛いから全て許される。


「そういえば真也!!」


 優の目線の高さに屈んでいた樹久は、思い出したように勢いよく立ち上がった。

 そのまま、


「お前!! Tbutterで俺のことブロックしただろ!!」


 と、泣きながら喚く。


「かなり傷ついたんだぞ俺! 誕生日なのに今日は傷ついてばっかり! 慰謝料代わりに優ちゃんよこせ!」
「よかったじゃねーか、おめでとう。傷ついたついでにそのままゴルゴダの丘で磔刑(たっけい)にでも処されてろ」
「十字架でぶん殴ったろかコラァ!!」


 掴みかかってきた樹久の腕を捕まえ、流すように背負い投げ。

 優は「すごーい!」とはしゃぎ、商店街の皆さんは拍手を送ってくれた。


「うっ……ぐすっ……綺麗な一本背負いだったチクショウ……ううっ……何この公開処刑……」


 地面に伏せ、ケツだけ持ち上げて樹久はすすり泣く。


「キリストと同じ誕生日なのに……ぐすっ……新世界の神なのに……」
「俺の勝ちだな」


 言いながら頭を踏んでやった。

 ……まあ、友人(仮)の誕生日を無視するほど俺は鬼畜ではないし忘れるほど薄情でもない。
 涙を流す樹久の横に、先ほど買ったチョコレートケーキとは別のケーキが入った箱を置く。

 ……コイツはショートケーキ派だ。


「いつまでもそんな格好で泣いてると、そのケツにぶっといモン突っ込むぞ」
「きっちゃんのためにね、ぱぱが買ったんだよ!」
「……こーら、優。余計なことはお喋りしちゃダメだろ」


 額を軽く指で弾けば、優は自分の口に手で蓋をする。

 樹久の輝く眼差しから逃れるため、その小さな手を握って歩き出した。


「真也……! 真也ありがとう! すっげー嬉しい! うわっ……ありがとうな真也!!」
「うるせぇ黙れ」
「ツンデレめ! 大好きだ!!」
「鬱陶しい。抱きつくな離れろ」